LCHとは

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1.はじめに
  LCH は、さまざまな症状がでて、さまざまな経過をたどる、まれで不思議な病気です。さまざまなところに病変がでてくるため、患者さんは整形外科や耳鼻科・脳外科・皮膚科・呼吸器科・歯科などさまざまな科を受診します。この病気のことは医学部では主に小児科で習いますが、病気がめずらしく教科書の片すみにしか書かれていないため、この病気について詳しい医師はあまりいません。その結果、なかなか診断がつかず、診断がついても適切な治療がされないことがあります。  ここでは、最新のデータに基づきLCH について解説します。

2.LCH という病名は?
 以前はヒスチオサイトーシスX(histiocytosis X)と呼ばれ、レテラー・ジーべ病(Letterer-Siwe)、ハンド・シューラー・クリスチャン病(Hand-Schuller-Christian)、好酸球性肉芽腫症(eosinophilic granuloma)の3つに分けられていました。しかし、これらはすべてランゲルハンス細胞という特殊な細胞がかかわる病気であることがわかり、まとめてLCH と呼ばれるようになりました。今では、病気の部位がひとつの臓器(単一臓器型)か、二つ以上の臓器(多臓器型)かで分けます。単一臓器型と多臓器型の患者さんの割合は12対1です。

3.どのくらい患者さんがいて、どんな人に多いの?
 日本ではLCH にかかる子どもの数は年に60-70 人(20万人に1人)と推計されます。多臓器型は1 歳未満に多く、ほとんどが3 歳未満です。一方、単一臓器型は幅広い年齢ででてきます。患者さんの70 ~80%は子どもですが、おとなの患者さんもいます(100万人に1~2人)。子どもでは、男児にやや多くみられます。

4.原因はなんですか?
 本来、ランゲルハンス細胞は組織球の一種で免疫に関係する白血球の仲間です。主に皮膚などにいて、体に入ってきた異物を食べて、どんな異物かをリンパ球に伝える働きをします。そのランゲルハンス細胞が、皮膚や骨・リンパ節などで異常に増えるとLCH という病気になります。LCH の病変部位には、ランゲルハンス細胞のほかに、リンパ球や好酸球、破骨細胞様多核巨細胞(骨などを融かす働きがある細胞)などが集まっています。これらの細胞が互いに刺激しあって、こぶ(瘤)を作ったり、骨を破壊したりします。どうして、ランゲルハンス細胞が異常に増えるのかについてはよくわかっていません。

5.症状にはどんなものがありますか?
 子どもの単一臓器型の場合、ほとんどは骨病変ですが、皮膚やリンパ節に病変 がみられる例も少数あります。多臓器型の場合、皮膚と骨病変の頻度が高く、肝、脾、肺、胸腺、骨髄などさまざまな臓器にも病変がみられます。  初発症状として、単一臓器型では骨が腫れる、骨の痛み、発熱といった症状が多く、多臓器型では皮膚のぶつぶつ、骨が腫れる、発熱、リンパ節が腫れる、肝臓や脾臓が腫れるといった症状が多くみられます。以下、病変の部位別に症状を示します。
*骨病変
:頭の骨に最も多くみられます。あばら骨や腰骨、背骨、あごの骨、手足の骨にもみられます。頭の骨の場合、こぶのように腫れてぷよぷよとし、その後、中心部がへこんでクレーターのような状態になります。頭をぶつけたところからでてくることがあります。足や骨盤の骨の場合、痛みで足を引きずることがあります。顎の骨の場合、歯が抜けることがあります。背骨の場合、骨の周りが腫れて神経を圧迫しヘルニアのような症状がでることがあります。目の周りの骨の場合、目がとび出たり視力がおちたりすることがあります。単純レントゲンでは骨が融けたようにみえます。
*皮膚病変
  :頭や脇、股などに脂漏性湿疹、体幹などにあせも様または出血斑様の小丘疹がみられます。
*リンパ節病変
  :首のリンパ節が腫れることが多くみられます。
*耳病変
  :なかなかよくならない耳だれが特徴です。中耳や内耳が破壊され難聴になることがあります。
*造血器病変
  :貧血や血小板減少をきたします。ひどい貧血や血小板減少がある患者さんでは、命を落とすことがあります。
*肝・脾臓病変
  :肝臓や脾臓が腫れます。肝臓の働きが悪くなり、むくみや腹水、黄疸がでることがあります。このような場合も、命の危険があります。
*肺病変
  :症状として乾いた咳、息切れ、息苦しさ、などが出ます。肺にLCH 病変が出ると空気の袋である肺胞が破壊され、肺と胸の壁の間に空気が漏れて肺が縮んでしまう状態、すなわち気胸をおこします。さらに肺の破壊が進むと、肺は蜂の巣のような状態、すなわち蜂窩肺となります。子どもではほとんどが多臓器型の一部として出ますが、幼児では症状に気付かず、胸のX 線写真を撮って初めて見つかることがあります。おとなのLCH では肺だけに病変がある患者さんが多く、検診などでたまたま見つかることがあります。おとなの患者さんのほとんどは喫煙者とされています。
*消化管病変
  :口内炎や歯肉の腫れがおこることがあります。腸にも病変ができることがあり、下痢をしたり、便に血が混じったりすることがあります。
*視床下部・下垂体病変
  :脳の奥のほうに視床下部と下垂体と呼ばれるホルモンの中枢があります。視床下部から下垂体を刺激するホルモンが出て、それによって下垂体からさまざまなホルモンが出ます。下垂体の後葉というところは尿を濃くするホルモン、すなわち抗利尿ホルモン(ADH)を貯めていて分泌するところです。視床下部や下垂体茎と呼ばれる所にLCH 病変が出来ると、このホルモンの貯留・分泌が少なくなり、尿崩症になります。薄い尿が多量にでるためにのどが渇き多量に水分を飲む状態です。LCH では尿崩症が高率にみられます。頭部MRI 検査をすると、下垂体後葉の高輝度スポットが見えなくなっています。尿崩症はLCH の診断がつくまえからあることや、診断と同時に見られることもありますが、治療中や治療が終わってから出てくることもあります。一度ADH の分泌が悪くなると元に戻ることはありま せんが、DDAVP という点鼻薬でホルモンを補充すれば尿量をコントロールすることができます。LCH 病変の大きさや持続期間によっては下垂体後葉だけでなく、下垂体の前葉というところも障害されることがあります。そうすると、成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどの分泌が悪くなり、成長障害や性腺機能低下がおこります。
*脳病変
  :LCH の脳の病変には視床下部・下垂体病変のほかに、脳そのものの中の腫瘤、脳を包んでいる膜の腫瘤、もうひとつは、脳の変性病変があります。脳の変性病変は最近特に注目されています。ふらつき、転びやすい、うまくしゃべれない、飲み込みにくい、手が振るえる、集中できない、性格がかわるなどの症状が、多くの場合LCH を発症してから数年してでてきます。頭部MRI で小脳や大脳基底核という部分に左右対称に病変がでてくるのが特徴です。脳の腫瘤や頭の骨病変など頚部より上に病変がある患者さんでは、視床下部・下垂体病変や脳変性病変がでてくる頻度が高くなります。なので、頭部MRI を定期的に受けて、病変の早期発見をすることが大切です。

6.どのように診断しますか?
 LCH の症状はさまざまで、症状が出そろうまでに時間がかかることもあります。子どもにありふれた症状ですが、皮疹や中耳炎がなかなか治らない場合、ひょっとしてLCH ではないかと疑うことが大切です。診断の決め手になる血液検査はありませんが、赤沈やCRP、可溶性IL-2 受容体の値が高くなることが知られています。疑わしい場合にはレントゲン検査やCT 検査、シンチ検査などによって、どこにどれだけ病変がひろがっているのかを知ることが重要です。診断を確定するには、皮膚や骨などの病変の一部を採って顕微鏡で見て確かめること(生検による病理検査)が必要です。ピーナッツ様の核をした組織球が好酸球やリンパ球などとともに集まり、この組織球が免疫染色でCD1a 陽性または電子顕微鏡でBirbeck 顆粒と呼ばれる特殊な構造を持っていると診断は確定します。

7.治療はどうしますか?
  どこにどれだけ病変があるかによって治療方法が違ってきます。単一臓器型で1 か所にしか病変がない場合には何もしなくても自然によくなることもあり、治療をせず様子を見ることもあります。一方、多臓器型の場合は後遺症がでたり命にかかわったりすることもあり、抗がん剤を使った治療(化学療法)を行います。 以下、病型別に治療法を示します。 
単一臓器型の場合
 骨の1ヶ所の病変
  :手や足の骨の場合、自然によくなることも多く、生検をした時に病変部を削るまたは副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)を注入する治療をします。病変部をすべて取りきってしまうような手術をすると、骨が再生してきません。その結果、あごの骨などの場合、顔の変形をきたすので注意が必要です。頭や顔の骨の場合には、のちに脳病変がでてくる率が高くなるといわれ化学療法が行われることがあります。
 骨の複数の病変
  :後遺症を少なくするために、化学療法がおこなわれます。
 皮膚病変
  :自然によくなることも多い一方、多臓器型に進行することもあります。ステロイド剤の塗り薬を使い注意深く経過を見るか、または化学療法を行います。
 肺病変
  :子どもの場合、肺の破壊が進んでいくことが多く、化学療法が必要です。おとなではまず禁煙します。これだけでよくなることがあります。徐々に息苦しさが進むこともあり、そのような場合、ステロイド剤による治療が行われることがあります。
多臓器型の場合
 ステロイド剤とビンクリスチン(またはビンブラスチン)の基本薬剤に、6-メルカプトプリン、メソトレキセート、シンタラビンなどを組み合わせた化学療法を約1 年間行います。欧米ではLCH-III、日本ではJLSG-02 プロトコールによる多施設共同臨床研究が行われています。  化学療法の効果がなく、急速に進行するまたは病変が消えない患者さんには、同種造血幹細胞移植(SCT)が試みられています。再燃した患者さんには、クラドリビン(2-CDA)や破骨細胞を抑制するビスフォスフォネートなどによる治療が試みられています。 以前は、エトポシド(VP-16)が治療薬の主役でした。しかし、ほかの薬より優れていることが証明できなかったこと、二次性白血病をおこす危険性があることより、一般的には使われなくなりました。また、放射線治療も、通常は行われなくなりました。

8.経過はどうなっていきますか?
  ほとんどのLCH 患者さんではLCH 病変を持っていても命にかかわることはありませんが、なかには全く治療の効果が見られず坂を転げ落ちるようにどんどん悪化し命を落とす患者さんもあります。多臓器型で、肝臓や脾臓・肺・造血器(リスク臓器)に病変がある場合または治療開始後6 週間で治療効果がでない場合、血液検査で可溶性IL-2 受容体が高値の場合、死亡率は高くなります。多臓器型でリスク臓器に病変があり早期に治療効果がでない患者さんの死亡率は50%に上ります。自然に治るものから、命にかかわるものまで、さまざまだね。それによって治療が変わるんだ。 日本の小児LCH の臨床研究(JLSG-96)の死亡率は、単一臓器の多発型(ほとんどが骨の複数の病変)で0%、多臓器型で2%でした。欧米の成績と比べると、多臓器型の死亡率は極めて低くなっていました。 しかし、化学療法によって一旦症状が軽減またはほぼ消失しても再燃する患者さんは、単一臓器の多発型で30%、多臓器型で約50%に上りました。治療が奏効し症状がなくなって3 年以上経過していれば、その後に再燃することはまれでした。再燃した患者さんでは、尿崩症や神経障害などの後遺症がでる率が高くなりました。最終的には、3 人に2 人は後遺症なく治っていることが判っています。

9.後遺症にはどんなものが、どのくらいありますか?
 LCH は経過が長い病気で何年もかかることがあります。欧米のデータでは多臓器型では10 年間の経過の中で、70%以上の例に後遺症がでるといわれます。最も頻度が高いのは尿崩症で40%、次いで難聴、手足の骨や背骨の変形による整形外科的問題、神経障害、成長障害が20%前後にみられます。MRI の普及とともに、脳の変性病変の頻度がかなり高いこともわかってきました。整形外科的問題は、多臓器型だけでなく骨単独でも複数の骨に病変のある患者さんは高率にみられます。そのほか、肺病変による慢性呼吸不全、2 次性白血病の発生などがあります。  日本の小児LCH の臨床研究(JLSG-96)では、後遺症のでる率は多臓器型で20%弱と、従来いわれているより極めて低くなっていました。適切な化学療法の早期導入によって後遺症が減ると考えられます。

10.今後の課題は何ですか?
 子どものLCH については、かなり治療法が判ってきました。今後、再燃・後遺症を減らすにはどうしたらよいか、治療に反応せず急速に進行する患者さんをどう助けるかが課題です。おとなのLCH については、子どものようにまとまったデータが少なく、どのような患者さんがどのくらいおられて、どのように治療を受けておられ、経過がどうなっているのか、といったことがまだよく判っていないのが現状です。まずそれを明らかにし、どのような患者さんにどのような治療がいいのかを探っていく必要があります。

LCH についてよくある質問と答え

                     (Ver. 2010/01)

1.LCH は遺伝しますか?
 LCH 患者さんの100 人に1 人は家系内にLCH の患者さんがいるといわれています。また、一卵性双生児で一方がLCH の場合もうひとりもLCH になる率は高いといわれています。このことからすると、LCH になりやすいかどうかは、ある程度、遺伝的な要素があるかもしれません。しかし、明らかな遺伝性の病気ではありません。

2.LCH は「がん」の一種ですか?
 LCH は「がん」なのかどうかはまだ結論が出ていません。LCH 細胞は単クローン性である、つまり、ある患者さんで増えているLCH 細胞の元をたどればひとつのLCH 細胞を起源としています。また、LCH 細胞に染色体異常が見られることがあります。これらのことはLCH が「がん」としての性格を持っていることを示しています。しかし、LCH は自然に小さくなって治ることがあります。また、LCH 細胞を体の外に取り出して育てても、どんどんいつまでも増え続けることはありません。このことから、LCH は真の「がん」とは言えません。

3.LCH と「がん」は関係がありますか?
 LCH の患者さんの約5%は、LCH 発症前または発症後に、急性白血病やリンパ腫などの悪性腫瘍を合併するといわれています。

4.レテラー・ジーべ病(Letterer-Siwe)とは何ですか?
 LCH のかつての呼び名のひとつで、リスク臓器に病変のある多臓器型LCH に相当します。1 歳までに発病することがほとんどです。皮膚の発疹、肝臓や脾臓の腫れ、リンパ節の腫れ、貧血などの症状がでます。 ほとんどの場合、急速に症状が進み、治療をしないと死亡します。

5.ハンド・シューラー・クリスチャン病(Hand-Schuller-Christian)とは何ですか?
 LCH のかつての呼び名のひとつで、リスク臓器浸潤のない多臓器型LCH に相当します。多くは幼児期に発病します。眼がとび出る、尿崩症、頭の骨が融けるのが主な3 症状です。病気の経過はゆっくりしで、死亡することはあまりありません。

6.好酸球性肉芽腫症(eosinophilic granuloma)とは何ですか?
 LCH のかつての呼び名のひとつで、単一臓器型LCH に相当します。幼児期からおとなまで幅広い年齢で発病します。最も多いのは骨が融ける症状です。おとなでは肺単独病変も多くみられます。自然に治ることもあり、死亡することはほとんどありません。

7.リスク臓器とは何ですか?
 LCH の病変が、肝臓/脾臓または肺・造血器にある患者さんは死亡率が高く、この3 つをリスク臓器と呼びます。①肝浸潤は3cm 以上腫れているまたは肝機能不全がある、生検で確かめられたとき、②脾臓浸潤は肋骨の下に2cm 以上腫れているとき、③肺浸潤はCT で典型的な所見があるまたは生検で確かめられたとき、④造血器浸潤は、貧血(ヘモグロビン10g/dl 未満)または白血球数減少(4,000 未満)、血小板減少(10万未満)があるとき、浸潤ありと診断します。造血器浸潤は骨髄検査をすると確かめることができます。

8.中枢神経(CNS)リスク病変とは何ですか?
 乳突蜂巣や眼窩、頭蓋底、副鼻腔などの骨に病変があり軟部組織腫瘤を伴う場合、尿崩症の頻度が高くなり、これらの病変をCNS リスク病変と呼びます。CNS リスク病変の場合、単一病変であっても化学療法が薦められます。

9.なに科で診てもらえばいいでしょうか?
 あちこちに病変がでます。それぞれの病変は、整形外科や耳鼻科、脳外科、皮膚科などの専門科で診てもらう必要がありますが、全体を診て総合的な治療方針を決めることが重要です。子どもであれば小児科の血液腫瘍専門が必要です。おとなで肺だけの病変であれば呼吸器内科を受診するのが普通ですが、本当に肺だけの病変なのかどうか、の確認には一度は血液腫瘍内科を受診することが薦められます。 多臓器型であれば血液腫瘍内科を受診するほうがいいでしょう。

10.骨病変は全部きれいに切り取ったほうがいいのでしょうか?
 骨病変を大きく削り取ると骨が再生しなくなります。骨が欠損したままとなり、骨は成長しなくなるので、 お薦めできません。例えば、顎の骨を大きく削り取ってしまうと顔が左右非対称になります。一方、化学療法をした場合、その効果がでてくると骨は徐々に再生し融けていた骨が元の形に戻ってきます。骨が融けた部分を早く補強しないといけない場合、例えば頭の骨が融けて脳の表面の太い血管を外から傷つけて大出血の危険がある場合には、骨病変をきれいに取って人工骨を入れることがあります。

11.抗がん剤以外の治療薬はありますか?
 骨の病変に対して、非ステロイド系抗炎症剤(解熱鎮痛薬のたぐい)や骨粗鬆症の薬であるビスフォスフ ォネートが効いたという報告がありますが、その効果はまだ確かだとはいえません。今後、その効果を確かめていく必要があります。

12.脳変性病変の治療はどうしたらいいでしょうか?
  脳変性病変は徐々に進行し、よくなることはないといわれています。進行をくい止めることが重要ですが、有効な治療法はわかっていません。日本では、γグロブリン療法が試みられています。

(LCH研究会HPより)

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